僕たちはDIOを倒すため日本を旅立ち、日々戦いが続く中で今晩は久しぶりに大きなホテルへ泊ることが出来た。 ジョースターさんが気を利かせてくれて僕たちは一緒の部屋だ。 それはもちろん嬉しいのだけれど、やはり気恥ずかしい。 Love me tender, love me sweet, never let me go 〜♪ 胸に深く響く低い声が心地良い。 バルコニーへ出て煙草を吸っていた承太郎が短くなった煙草を灰皿に押し付けて消すと徐に歌い出したのだ。 僕は明日の準備をしていた手を止めて彼の歌声に聞き入った。 普段、皆と会話をしている時も思うのだが承太郎は英語の発音がかなり良い。 というよりはネイティブなんじゃあないかと思う程に滑らかだ。 何でも子供のころ、ジョースターさんと話す時は英語しか認めなかったからだそうだ。 僕の方はと言えば、旅行で自分だけでも不自由しないくらいには話せる。 しかし承太郎の流れるような美しい発音には到底敵わない。 同じ日本で育ったと言うのに、と少し悔しい気持ちになる。 と同時に、憧れる。 それにしてもこの甘いラヴソングは僕に向けられていると自惚れても良いのだろうか? 僕は彼が1番を歌い終わったところで声を掛ける。 「承太郎は歌も上手いんだな。」 「…そうか?」 「そうだよ。それに、とっても良い声だ。」 「俺はお前の声のが好きだぜ、典明。」 「フフ、ありがと。」 室内へ戻って来た承太郎に抱き寄せられて僕はうっとりと眼を閉じた。 学ランに移った煙草や土煙りの匂いと承太郎の匂いが合わさって僕を安心させてくれる。 この広い胸の中に居る限り「安全」なのだと思わせてくれる。 肩口に額を付けたままで僕はお願いしてみた。 「なぁ、歌ってくれないか?もう一度、初めから。」 「どうせお前にしか聞かせねぇよ。」 あっさりと聞き入れてくれた承太郎は僕の気も知らないで耳元でゆっくりと歌い出した。 この歌詞の内容は君が僕に思ってくれていること何だと考えて良いんだよな? 嬉しさと恥ずかしさに顔は赤くなって心臓は壊れそうに脈打っていた。 《愛してくれ、優しく、誠実に。それだけで俺の夢は叶うんだ。愛してるぜ、いつだってお前だけを。》 僕は彼の腕の中で涙を流した。今までこれ程に僕を愛してくれた人はいなかったから。 歌い終わっても彼は少しの間そのままで居させてくれた。 涙が止まり、心が落ち着いて声が震えなくなってから僕は言った。 「ありがとう承太郎。愛してる。」 本当はもっとたくさんの事を言いたかったのに、これ以上口を開いていたらまた泣き出しそうで言えなかった。 この数日後、僕は昏睡状態に入る。 ************************************************************************************************************ リビングのソファに二人並んで座り、見るともなしに付けていたTVから聞き覚えのある歌が聞こえてきた。 ロックの王が歌う、低くて甘いラヴソング。 「なぁ、この曲って前に承太郎が歌ってくれた歌じゃあないか?」 「そうだな。…覚えていたのか。」 少し驚いたような顔をした彼に、僕は微笑みかけて言った。 「当たり前だよ!あの時は本当に嬉しかったんだからね。そう言えば僕は泣いてしまったんだっけ。」 「…あの想いは嘘なんかじゃあねぇ。今も、な。」 「僕だって負けないくらい君を愛してるよ。」 僕はTVを切って承太郎にキスをした。そしてその時から気になっていたことを質問した。 「そう言えば、あの曲には何か理由でもあるのかい?」 承太郎は少しだけ言うのを躊躇う様な沈黙の後で話してくれた。 驚いたことに、この曲はホリィさんから教わったのだそうだ。 「お袋は以前からこの曲が好きだったらしいんだが、親父に歌ってもらったのに感激してな。俺にも覚えさせたってわけだ。」 「じゃあこれはホリィさんたちの想い出の曲なんだ!素敵だな、さすがミュージシャンというか…」 「まぁ、な。だがお袋が言うにはこれは心から好きになったヤツにしか歌っちゃあならねぇそうだ。全く、やれやれだぜ。」 「え…?」 承太郎が照れ隠しに呆れたような表情で言った言葉は、僕に稲妻を落とした。 あの時『お前にしか』と言われた意味が今日やっと解った。幸せで眩暈がしそうだ。 「承太郎…また歌ってくれるかい?」 「もちろん、お前にだけな。」 グイッと肩を抱き寄せられて、僕の頭は彼の胸の辺りにある。 その状態で彼はゆっくりと歌い出した。 彼の体内を通して聴く歌は少しくぐもっていたけれど、やはり上手くてとても心地よかった。 僕はしがみ付く様にして彼の歌を聞いた。 案の定、今回も涙が溢れ出て幸せな想いでいっぱいになった。 《俺を愛してくれ、優しく、なぁ愛しいお前よ。お前が俺のものだと言ってくれ。最期のその時まで、ずっと共に過そう。》 一度、死別を覚悟した僕にはこのフレーズが特に響いた。 いつ来るか知れない『その時』を不安に思って生きるより、 いつ『その時』が来ても良い様に精一杯ずっと傍で一瞬一瞬を大切に過ごした方が良い。 不安に思う余裕なんてない位に心も身体も近くに。 久しぶりに聞いたこの曲は、あの時とはまた違う想いを僕にくれた。 今度は僕が、この曲を承太郎に歌ってあげよう。誰でもない、愛しい彼に。 For my darlin’ I love you, and I always will. |