幸せな日々





「やあ、仗助君。いらっしゃい。」
「どもッス!また遊びに来ちゃいました。」
「さぁ、上がって。承太郎も待ってたんだよ。」
「お邪魔しまス。」

今日は仗助君が遊びに来てくれた。僕らは杜王での事件の後で知り合った。
僕はあの時仕事が立て込んでいて行けなかったのだけれど、
僕のことを承太郎から聞いた仗助君が会いたいと言って会いに言ってくれたのが始まりだった。


僕らはゲームの趣味がとてもよく似ていて話が弾んだ。
承太郎は「やれやれだ。」なんて言って僕たちのことを呆れ顔で見ていたけれど、
それ以来仗助君は僕たちの家へ遊びに来るようになった。

仗助君は僕たちが恋人同士であると知っても態度は全く変わらず、僕たちのことを兄のように慕ってくれている。
僕たちも弟は居ないけれど実の弟のように可愛いと思っている。
居間に行くと承太郎がソファで読んでいた本にしおりを挟んでテーブルに置くところだった。
仗助君は元気よく声を掛けた。

「こんちはッス、承太郎さん。お世話になります!」
「おう、俺は仕事が入っているが典明は仕事が一段落したらしいんでな。ゲームの相手でもしてやってくれ。」
「酷いな承太郎!僕を子供扱いするなんて。あとでやりたいって言っても君にはやらせないぞ。」
「相変わらずっスね!」

なんて言われてしまった。彼の底なしに明るい笑顔を見ているとこちらまで笑顔になる。
本当に良い子だ。…髪型の事に触れなければ、だけれど。
初めて会ったとき、僕は承太郎に聞いていたから「今時まだこんな髪型が…」と思ったけれど何も言わなかった。


しかし、この間三人で出かけた時に事は起きた。
ちょうどそのとき承太郎が席をはずしていて僕たちは二人でコーヒーを飲んでいた。
そこに通り掛かった不良と思しき青年たちが仗助君の髪型を笑ったのだ。
そうしたらいきなり形相を変えてプッツンした仗助君はその青年たちに殴りかかったのだ。
僕はもう驚いてしまってどうしたら良いのか分からなくて固まってしまった。
一瞬の後に我に返った僕は仗助君を取り押さえようとしたのだけれど力の差に全く歯が立たず、
承太郎が帰って来なければ大変なことになっていただろう。
承太郎は、大きな溜息を一つ吐くと慣れた様子で「スタープラチナ・ザ・ワールドッ!」と言って時を止めた(らしい)。
気づいた時には仗助君が地面に吹き飛ばされていた。

「おい、仗助。目は覚めたか?」
「うえ?すっすいません、またやっちまった…。」

項垂れる仗助君に小さく頷くと承太郎は青年たちに向き直り、見下ろすと言い放った。

「これに懲りて下らんことで他人を笑うのはやめることだな。」
「は、はいぃっ!!すいませんっしたァッ!!!」

彼らは逃げるように走り去って行った。
圧倒的な人間の差を見せつけて説教をした承太郎はとても恰好良くて惚れ直してしまった。
仗助君はその日ずっと落ち込んでいたが、承太郎が何やら後で慰めていた。

最近ではそういうことも無くなって落ち着いてきたんスよォ、と仗助君は言っていた。
キラキラした目でそう言った彼は子犬みたいで本当に可愛いのだけれど、そんなことを言えば怒りだしてしまうに決まっている。

「じゃあお茶でも淹れようか?何が良い?」
「んー、じゃコーヒーお願いします。」
「俺も頼む。」
「はいはい、ちょっと待っててくれよ。」
「はいッス!」

僕がキッチンに向かうとき、仗助君の「今、何読んでたんスか?」という無邪気な声が聞こえてきてとても微笑ましかった。


淹れたコーヒーを運んで戻ると二人はゲームの用意を始めていた。

「何だい、もう始めるのかい?」
「いや、俺典明さんには全く勝てないスけど承太郎さん相手にならイイ勝負できるんじゃあないかなぁ〜と思って…。」
「コイツに負けては居れんからな。」

真面目な顔をして言う承太郎が子供っぽくて可笑しかった。
仗助君も腕をまくって「負けないッスよォ〜!」なんて言って張り切っていた。
僕はいつもに増して幸せだった。
子供が居たらこんな感じなのかな、と思う。実際に分かりはしないのだけれど。

冷めないうちに、と僕はコーヒーを彼らの前に置いたけれど、もう彼らはゲームに夢中だった。
仕方無いやつらだ、と一つ息を吐くと僕だけコーヒーに口をつける。
承太郎は大人気なく本気になっていた。堪え切れずに笑いを洩らすと、二人は同時に振り返って僕を見た。
その顔がとてもよく似ていて僕はとうとう吹き出した。

「な、なんスか〜?」
「おい…」

二人は僕の反応がお気に召さなかったようだ。
仗助君は訝しげに、承太郎は照れ隠しに憮然として僕を見ている。

「何でもないさ。ただ、あんなに強いスタンドを持った二人がゲームに悪戦苦闘しているのが可笑しくって!」

そう言ってやると二人は何とも言えない表情をした後で、僕に釣られたかのように笑った。

平和で、穏やかで、何にもない。
だけれどとても幸せな日々。
こんな日がずっと続くことを祈るよ。