※以下の文章は1周年記念フリー作品の「すれ違い痛心」の後日談です。 この作品はリクエストしてくださった壱様にささげます! ※5部にある「Buon Natale!」を先にお読みいただくとより分かりやすいです。 あれから一月が過ぎ、ミスタや部下たちもすっかり良くなって、パッショーネにまた平穏な日々が戻って来た。 そんなある日の午後のお話。 「ねぇミスタ。」 「何だよジョルノ。」 ジョルノは執務室の机から、ソファに行儀悪く寝そべっているミスタに声を掛けた。 あれからと言うもの、ミスタは今まで以上にジョルノの傍を離れようとしない。 普通ならば命の危険があったのはミスタなのだから「ジョルノが傍を離れようとしない」となるところだがこの二人は違う。 ミスタ曰く「俺が見張ってれば済むこと」だそうで、時間があればこうして執務室に入り浸っている。 フーゴは五年前に戻ってしまったようだと頭を抱えているが、二人はお構いなしだった。 「こんな所で油を売っていて良いんですか? 君にはいくつか仕事があったと思いますが。」 「平気だ。もう終わってる。」 「おや、珍しいですね。てっきり放りだして来たのかと……」 「ジョルノ〜…お前俺を何だと思ってんだ…」 「あは、すみません。でも大切な恋人だと思っていますよ。」 「俺もだぜ。」 「やはり両想いですね、僕たち。」 「当ったり前だろ?」 ふわふわとした恋人同士の雰囲気は温かいが、外は雪が降るほどの寒さだった。 今日は12月23日、明日から三日間のナターレに向けて最後の仕事だった。 今年もフーゴと共にトリッシュの待っている海辺の家へ向かうことになっている。 そのフーゴはと言えば、舞い込んでくる年末のパーティーの招待を片っ端から断ることに追われていた。 同盟ファミリーでも親しいボスからは、ジョルノがナターレをどう過ごすのかを知っているため招待は来ない。 しかし海外の組織や、まだ付き合いの短いファミリーからは断られると知ってか知らずかたくさんのお誘いが来る。 ジョルノは重要と思われる組織には今机に向かっているように直筆で断わりの連絡を入れるが、それ以外はフーゴ任せ。 そのため彼は電話応対や断りの手紙の代筆に明け暮れている。 きっちりしなくては気の済まない彼にとっては、これは重要な問題だった。 『良いですね? 僕がこの仕事に追われている間に溜まった書類を済ませておいてください! でないと出発させませんよ……』 隈を作ったフーゴの凄みは恐ろしいものがあり、ミスタは珍しく素早く書類整理を終わらせていたのだった。 ジョルノはと言えば、何通も同じような文句を並べて書くのに嫌気がさして中々終わらせられなかった。 しかし事務的な書類は片付いており、これが済んでしまえばもうナターレに浸れるのだった。 「ふふふ、今年はトリッシュ、どんなプレゼントを用意してくれているんでしょうね。」 「そうだなぁ、あいつのセンスは素晴らしいから楽しみだ。俺たちのイメージで作ってくれてるんじゃねぇか?」 「人気若手デザイナー、トリッシュ・ウナの一点物をいただけるわけですね。」 「あぁ、ヴォーグにも取り上げられてたらしいし、順調みたいで良かった。」 「彼女のセンスは僕が認めるほどだ。当然じゃあないですか?」 「まぁ、そうかもな。」 トリッシュはこの五年で被服の専門学校を卒業し、有名デザイナーの助手をしたりしていたが、とうとう去年の秋デザイナーとして旗を揚げた。 斬新なデザインと機能性で若者を中心にモノによっては老年層まで人気が高かった。 パトロンは勿論ジョルノだったが、パッショーネとしてではなく表のIT会社の総取締役として名乗っている。 去年のナターレにはそれぞれをイメージしたスーツを仕立ててくれた。 ジョルノにはコバルトブルーとブラックのストライプ、フーゴには葡萄色の、ミスタにはダークグレーのものを。 センスが光るのは上着の内側で、それぞれ空色、芥子色、橙色になっていた。 着心地も良くシルエットも気に入っていて、色違いも注文したほどだった。 一方彼らはトリッシュに何を贈るかで先日少しだけ揉めた。 デザイナーに服を贈るわけにはいかず、かといって絵画を贈るにも前年に断られた。 アクセサリーが良い、極上の酒を、いや、いっそのこと株券?などと言っていたが、今年はアクセサリーにすることにした。 贔屓にしている宝石店へ入ると、支配人自ら接客してくれた。 「このペンダントにしましょう。細工が美しい。」 「いや、こっちのが良いんじゃねぇか? ブレスレット失くしたって騒いでたぜ?」 「でもそのブレスレットはちょっと彼女にはシックすぎますよ。」 「そんなことねぇって! っていうかお前の選んだの、てんとう虫って…お前が欲しいだけだろうが!」 「良いじゃないですか、可愛いですよ! それに、てんとう虫は幸運のお守りです!」 「フン、まだまだお子様だな。」 「なんです、その言い方は!?」 ああだこうだと文句をつけ合うジョルノとミスタに、フーゴは呆れて溜息を一つ吐く。 ふと店の中を見渡すと奥に薔薇色に光る物を見た。 近づいて行くと、深みのあるピンク色の石が美しくカットされ薔薇の形に組まれたブローチだった。 その色は彼女の髪の色に良く似ていて繊細な銀細工が施されていた。 「ジョルノ、ミスタ! これはどうです?」 まだ言い合いを続けている二人に問いかけると、一目見るなり「それだ!」と意気投合した。 さっそくそれを箱に入れて包んでもらうように頼み、二人は先程までの言い争いが嘘のように仲良く品定めを始めてしまった。 やれやれと呆れたフーゴは、墓前に供える花を見てくると告げて店を後にした。 その後、ジョルノとミスタがカフスを見せてもらうよう頼むと、応接室へと通された。 いつも苦労してくれているフーゴにもプレゼントを贈ろうと考えたのである。 「どんなのが良いのかな? 僕はスクエアカットが良いと思うんですが。」 「そうだな、俺もそう思う。石の色はどうする?」 「黄緑なんてどうです? 彼が絶対に買わない色だと思いますが。」 「グレーや紫を好んで着るからアクセントに良いんじゃあねぇか?」 「そうですね!……ではこれをいただきましょう。」 ジョルノが指差したのは、鮮やかな黄緑色の石がはまったスクエアカットのものだった。 シンプルなデザインだが飽きの来ないもので、これならば気に入ってもらえそうだ。 それをプレゼント仕様にしてもらう間に、今度はピアスを見ていた。 プラチナで星を模った中に、濃紺の石がはまっているものがあり、ジョルノはそれをいたく気に入った。 一方ミスタはブルーダイヤモンドの片耳用のシンプルなものを選んだ。 一回り小さいものも、ジョルノが選んだものと一緒に自分で支払った。 ジョルノはミスタのピアスとこれまでの会計をサイン一つで済ませ、支配人が部屋を出ると不思議そうに聞いた。 「そちらのサイズ違いも渡してくれて良かったのに、どうしてです?」 「お前左に一つ穴増やしただろ? どうせなら揃いでってのも良いんじゃねぇかと思って。」 照れ隠しに頭を掻きながら言うミスタに、ジョルノは感激しながら礼を言った。 「ありがとう、ミスタ!! ずっと大切にしますね…!」 「おう! 勿論、俺もだ。」 そして今までしていたピアスを外すと、新しく贈り合ったものを身に付けた。 「ジョルノ、愛してる……」 「僕も君を愛しています…!」 口付けて微笑みを交わしていると、ノックと共に支配人が現れた。 「お連れ様がお戻りになられました。」 そう言って恭しく腰を折った、老年に差し掛かろうとする彼に礼を言い、二人は立ち上がった。 ラッピングが施されたプレゼントをミスタが受け取り、店内へ戻るとフーゴが待っていた。 「ご苦労様。今年はどういった風に?」 「青や紫も入れるそうです。華やかなのにするというから、それはトリッシュのだけにしてくれと頼んだよ。」 「ははは、あそこの親父は湿っぽいのが苦手だからなぁ! でもきっと良い出来だろ。」 「そうですね、今から楽しみです。」 三人はもう一度礼を言って、店員一同に見送られて店を後にした。 「よし、終わった。僕もこれで解放されましたよ。」 「お疲れさん。どうする、フーゴに先に渡しちまうか?」 「手伝いに行きがてら持って行きましょう。せっかくだから明日着けてほしい。」 「決まりだな!」 二人は連れ立ってフーゴの居る参謀執務室へと向かった。 「フーゴ、今少し良いか?」 「えぇ、一段落ついたところですよ。」 「お疲れ様。」 お茶を淹れようと言うフーゴに待ったを掛けて、二人は可愛らしくラッピングされた小箱を差し出した。 「何です、これ?」 「Buon Natale! ちょっと早いがいつもの礼だ。」 「二人で選んだんです。気に入ってもらえれば良いけど。」 「あ…ありがとう。」 珍しく赤面してフーゴはそれを受け取る。 中を開けて煌めくカフスを手に取ると、小さな声で「大切にする。」と言った。 「良かったら明日着けて行ってくれよ。」 「そうします。……ありがとう、ミスタ、ジョルノ。」 「「 Prego! 」」(どういたしまして!) その後、三人はお茶を飲んで小休止を摂り、残っていた仕事を分担して終わらせると帰宅の途へ着いた。 翌朝、迎えに来たフーゴの運転で彼らは出発した。 車の中には大きなブーケが4つあり、爽やかで甘い香りで車内を満たしていた。 フーゴの愛車は銀の風となってアウトバーンを走り抜ける。 跳ね馬が駆ければ、道は自然と空いていく。 「安全運転で頼むぜ?」 「180キロまで、でしょう? まったくのんびり運転だ。」 「オフの時、フーゴはスピード狂ですからね。」 「心配しなくても、僕のスカリエッティにもしもなんてことは無い!」 「「はいはい。」」 ハンドルを切るフーゴの袖口には、件のカフスが光っていた。 三人はこれからまず亡き友へ挨拶に行き、祈りを捧げる。 そしてトリッシュの待つ温かい家へと向かうのだ。 今日から始まる三日間が皆、楽しみで仕方がない。 ジョルノは携帯電話を取り出してトリッシュに連絡する。 「Pronto? Buongiorno,トリッシュ。後3時間でそちらへ着きます。」 「Buongiorno! 今年は早いのね。良いわ、料理にもそれくらい時間が掛かるから。」 「何か必要なものはありませんか?」 「そうね……何でも良いからフルーツを買ってきて。後、送ってくれたお酒が足りないと思うならそれもよ。」 「分かりました。久々にトリッシュの手料理を味わえるかと思うと楽しみですよ。」 「期待してて! それじゃあ、待ってるわ!」 「ええ、後ほど。」 電話切ると、ミスタが「元気そうだな、今年も!」と言って笑った。 それに頷いて、ジョルノも笑った。 「今年も最高のナターレにしましょう!」 「勿論!」「そうだな!」 今年も、穏やかで騒がしいナターレが始まる。 ※フーゴの愛車は「フェラーリ612スカリエッティ」です。 ・彼が二十歳になった時、記念に買ったフェラーリの真の4シーター! ・ジョルノ、ミスタ、トリッシュのために2シーターは諦めました(←妄想乙^p^) ・めっさ高いので、ジョルノが支援してくれました(それ故、足に使われる) ※石のイメージは以下の通りです。 ・トリッシュ:インカローズ(薔薇色の人生へと導く) ・フーゴ:ペリドット(ストレス解消・癒し) ・ジョルノ:ラピスラズリ(ミスタの誕生月石・成功、繁栄、健康) ・ミスタ:ダイヤモンド(ジョルノの誕生月石・変わらぬ愛、強さ) 特にブルーダイヤモンドの宝石言葉は『オールマイティ』! |