俺がこのチームに入ったのはもう数年前のことになる。 その時はまだメンバーが今の形ではなくて、今いるメンバーでは…そうだなぁ、 リゾットとジェラートとソルベしかいなかったと思う。 後はもう死んでしまったり他のチームに行ってしまったりというのが五人位いたかな。 まあとにかく、そこに俺は入った。 その中では俺が一番若くて、まだ十四だった。 スタンドは数年前に発現していたから他のメンバーのスタンドを見ても恐いとか気持ち悪いなんて思わなかった。 人を殺すとか、殺されるとか、そういうことにはここへ来る前にすでに慣れきってた。 物心つくころには「死ぬ」って事がどんな事なのかが理解出来てたし、怖くもなかった。 俺の母さんはアル中でヤク中の場末の娼婦だった。 それっぽい派手なメイクと露出の高い服、アルコールとキツイ香水の匂い。 俺とよく似た顔と髪の色。(最近鏡を見るとますます似てきたみたいで驚くんだよね。) その母さんも俺が十二になる前に死んだ。 春先に急に冷え込んでひいた風邪をこじらせて肺炎になって、呆気なくね。 いままで機嫌の良い時以外は「忙しいからあっちへ行っていろ」と言われて追いやられたり、 禁断症状で喚いていて近付けなかった母さんがやつれた顔で俺を枕元に呼んだ。 見たこともないような儚げで優しい笑顔でこう言った。 『アタシの息子に、生まれてきてくれて、ありがとう。幸せになるのよ…』 そんなこと思われてたなんて今まで思いもしなかったから驚いた。 それと同時に、羨ましかった。「母親」になりたいと思った。 死の淵にありながら我が子に「ありがとう」と言える母さんに憧れた。 正直に言うと、どうして男に生まれたんだろうって思った。 今となっては男で良かったと思うけどね。 母さんが死んで、俺は完全に独りになった。 寂しかったけど、「父親が誰か」なんてことは知らなかったし、第一どうでも良かった。 死ぬつもりなんて全くなかったから犯罪でも構わずやったし、別に罪悪感も感じなかった。 そうして暫くしたらスタンドが発現した。 「母親」にはなれなかったけど「息子を創る」ことが出来るようになったんだ。 嬉しくって何体かベイビィを創っていたらリーダーにスカウトされた。 ギャングの、しかも暗殺チームなんて俺には到底出来るはずがないって思ってたんだけど、 いざやってみて慣れてしまうと、どうってことなかった。 俺が入って三年が過ぎると今いるメンバーがずいぶん増えた。 俺の少し後にプロシュートが入って、一年後にホルマジオが入った。 そして二年後にはイルーゾォがメンバーに加わって、俺が入った時に居た奴らはもういなくなってた。 三年後の冬、メンバーが急遽一人増えるということで、俺はワクワクしてた。 俺は一つ決めてることがあって、それは新しく入ってきたメンバーの指を舐めて血液型を当てて見せるってこと! 皆が面白い反応を返してくれるから止められないんだよね。 プロシュートなんて猫みたいに俺を威嚇して怒ってたっけ。面白かったなぁ…!! そうそう、それでその新しいメンバーってのがギアッチョだったってわけ。 リーダーに連れてこられたギアッチョはまだ十五歳で、警戒心をむき出しにしてた。 眼鏡の向こうの瞳は凍りついたような薄いブルーで、 誰も信じない・信じられないっていう感じに冷めてたんだけど、 ギアッチョ自身からは寂しいってオーラが出てた。 俺も寂しいって思ってたからよく分かった。 「リゾットその子なの?」 ジェラートがそう聞くと、リーダーはゆっくりと頷いて話し始めた。 「新しくメンバーになったギアッチョだ。スタンド能力は、どんなものでも凍らせる能力。 生まれついてのものらしい。皆、宜しく頼んだぞ。」 「ギアッチョだ。宜しく。」 無愛想に言ったギアッチョに皆が簡単に自己紹介した。 そして一通りの顔合わせが終わり、プロシュートが切り出した。 「で、誰が付くんだ?俺は御免だぜ、リゾットよォ。」 前回イルーゾォが入って来た時も同じことを言って結局ホルマジオに押し付けていた。 だけど今となっては良かったんじゃあないかと思うよ。 二人はじれったいけど付き合い始めたみたいだからさ。 それでギアッチョの指導係なんだけど、誰も何も言わないから、 それならって思って座ってたソファの背から乗り出して俺は言った。 「俺がやるッ!!ねぇ良いでしょ、リーダー?」 「あ?お前が指導なんて出来るわけねぇだろ」 「良いだろう。ギアッチョ、こいつはメローネだ。歳はお前と近いがこの中でも古株だ。 しばらくの間、スタンドの相性が良ければこれからずっとお前と共に仕事に就く。分からない事があればこいつに聞け。」 「…了解。」 「よろしくね〜!」 こうして俺とギアッチョはコンビを組むことになった。 ギアッチョってば何か気に喰わない事があると急にキレて怒りだすから、初めはホントに手を焼いた。 ッていうか物凄く大変だったんだけど、仕事の方はしっかりやってくれたからそっちには支障はなかったんだよね。 やっぱり根は真面目な人なんだなって思った。 一緒に行動してるとさ、素直で真っすぐで優しいトコが垣間見えて、俺はギアッチョのことがだんだん好きになっていった。 初めのうちはメンバーともなかなか打ち解けなかったけど、一年が過ぎた頃にはもう家族みたいに馴染んでいた。 俺が入ったばっかりの頃はもっと殺伐としてて、一緒に買い物したりご飯食べたりなんてことはしなかった。 毎日が楽しくて、初めて家族に囲まれているようで嬉しくて、 だけど、兄弟みたいに接してくれるギアッチョに「愛してる」って真剣に伝えることが出来なくて、 いつもふざけて「ギアッチョ大好き!」って言ってた。 初めは「何言ってやがる!」って頭をはたかれたけど、しばらくすると「あ〜はいはい。」って流された。 ちょっと寂しかったけど、マジで拒絶されなくて良かった。 もしそんなことになったら立ち直れないな〜… あの時ばかりは俺の性格に感謝したね。 で、俺一人がモヤモヤしたまま一年半が過ぎた。 その日も俺とギアッチョは二人で任務に就いていた。 五日掛かりでターゲットを始末して、「本当につまらない仕事だった」と 口々に文句を言い合いながら借りた車に乗って帰ってくる途中だった。 夜通し運転して眠気が限界に達した俺は、 車を停めると助手席で寝ていたギアッチョに頼んで運転を代わって貰った。 「ごめんギアッチョ、もう眠いの我慢できない…」 「……あ?悪ィ寝過ぎた。今代わる。」 「ありがと〜…」 座席を交代して少しだけシートを後ろへ倒すとすぐに俺は眠りについた。 オレがこの組織、ってかチームに入ったのは十五の時だった。 スタンドは生まれつきらしい。 らしい、というのは気付けばこの力を自在に操ることが出来ていたからで、 「いつから」ということが分からないからだ。 何故このチームに入ることになったかといえば、 学校から帰ったら家族が殺されている所に偶然居合わせちまって、 カッとなって表の世界じゃあ生きていけねぇような殺人を犯しちまったからだ。 まあそれは置いておくとして… 初めてチームに来た時、何でこんなトコに女が居やがるんだって思った。 誰がってメローネの事だ。 その時から髪が長くて、ヒラヒラした服着てやがったから見間違えた。 綺麗なヤツだとはその時から思ってた。 だが、こんな関係になるなんてその時は微塵も思ってなかったぜ… 入って早々メローネとコンビを組まされて色々と教わった。 納得いかねぇことが初めは多くて、よくブチ切れてはメローネに八当たった。 その度になんだかんだと文句を言われたが、 それでもあいつは俺に愛想を尽かすどころか一層つきまとって来た。 どれだけ鬱陶しがって追いやろうとしても、むしろ逆効果だった。 だがそのうち隣にメローネが居ることに違和感を感じなくなって、 気付けばあいつが隣に居ることが当たり前になってた。 そしていつの間にかオレはメローネのことを好きでどうしようもなくなった。 気付かれねぇ様に素っ気なく振舞っても、あいつは無遠慮に俺の心に踏み込んでくる。 そしてオレ達はあの日、任務を終えると出来る限り早くその場を立ち去り、アジトに帰るために交代で夜通し運転していた。 夜中一時半に交代して仮眠をとっていたオレにメローネが声を掛けてきた。 ぼんやりとした意識を引き締めて、返事をしながら車内の時計を見てみればもうすぐ四時になろうとしていた。 すぐに交代して運転席に外から回り込んだ時には、メローネのやつはすでに寝息を立てていた。 よっぽど眠かったんだな、ブランケットも掛けずに寝ちまってて、暖房はついちゃあいたが明け方は冷え込む。 風邪をひかねぇように肩からそれを掛けてやってから静かに車を発進させた。 ラジオもつけずに全くの無音状態で走り続けて三十分。 早くも単調な道のりに飽きてきたオレは、ひとり物思いに耽る。 いつもメローネはオレに対して、何かあるとすぐ「大好き」と言う。 それが一体どんな意味なのかが理解できねぇ。 だがオレが知りたいのは正にそこんとこだ。 「メンバーとして」なのか「弟分として」なのか、それとも「恋愛対象として」なのか… まぁ、最後のはオレの願望なんだけどよォ。 それが分かんねぇ限りオレが想いを伝えることは不可能だ。 だってそうじゃねぇか。 ただの仲間や弟だと思ってたやつに、いきなり告白されたら気持ち悪ィだろ? 百歩譲って嫌悪されなかったとする。 (オレはこの言葉も納得いかねぇ。百歩ってのが大きいのか小さいのか分かんねぇし第一、 一歩を一つの妥協とすると百歩も譲っちまったら自分の考えなんてのは何処にも無くなっちまうだろうが!! イラつくぜぇッ!クソッ!クソッ!) だがもう二度とそれまでのようには戻れねぇ。 拒絶される位なら、今のままで居た方がいいに決まってる。 しかし本当はこの想いを一刻も早く吐き出したかった。 このままで居ることも、いい加減辛くなって来ていたからだ。 そして出来ればこの想いに応えてほしかった。 考えれば考えるほどオレの頭は混乱して、ウジウジ悩んでる自分が嫌になってムカついてきた。 ふと隣を見るとオレを悩ませている張本人はスゥスゥ気持ち良さそうに眠ってやがって、 プロシュートの言葉じゃねぇけど気付いたら車を停めて口付けてた。 メローネが驚いて目を覚ます。 それでも構わず口付けを続けた。 緊張していたあいつの身体が緩んだ。 そこでようやく唇を離し、何かを言われる前にオレは叫んだ。 「おい、メローネ!お前が言う好きってのはこういうことか!?」 「な、いきなりなんだよッ!」 「良いから答えろって言ってんだよッ!」 いきなりギアッチョにそう言われて俺は動揺して混乱して言葉に詰まった。 あっちからキスしてきたんだから、もしかして俺の事好きでいてくれてる の、かな…? どう答えたら良いか分からなくて、恥かしさに俯いたまま俺は小さく頷いた。 「そうだよ。…いつも言ってたのは、愛してるの、好き。」 メローネは常になく素直に答えた。 そんなアイツの恥ずかしがってる様に今更だがオレまで恥かしくなってきた。 「そ、そうか。」 「何でいきなりそんなこと聞くのか、聞いても良い…?」 勇気を出して顔を上げて聞いてみたら、 顔を真っ赤に染めたギアッチョが窓の外を向いて言った。 「俺もお前が好きだからに決まってんだろ。」 「そ、そっか。」 奇妙な沈黙がこの車の中を漂った。 告白し合ってんのに何でこんな風になっちまったのか分からねぇが、 その後たっぷり五分間はお互い何を言われて何を言ってしまったのかを頭の中で整理してた。 そしてメローネが先に口を開いた。 「ねぇ、無理してない?」 「バカかてめぇは!お前が好きだからこんなこっぱずかしいコトしてんだろ!?」 「ギアッチョ大好きッ!!」 「オレもだ、バ〜カ!!」 俺はギアッチョに抱きついて笑いながら泣いた。 メローネはオレの顔が赤いって泣きながら笑った。 片想いは気付かぬ間に両想いになっていて、『家族』だったオレ達は今日ようやく『恋人』になった。 今までと変わらず隣にあいつが居て、だが今までとは違う新しい関係になった。 これからもずっと一緒に俺たちは過ごして、生きていくんだ。 全く可笑しな始まりだけど、まぁ、これも有りじゃない? 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