「リゾット。…おい、リゾット!!」 「…何だ。」 「ん。」 バスローブ姿で首にタオルを掛け、大声で呼びつけた恋人にドライヤーを突き付けて、プロシュートは目だけで「乾かせ」と伝えた。 いつもの事とは言え「頼む。」くらい言えば可愛げもあるのだが、とリゾットは思っていることをおくびにも出さずにドライヤーを受け取った。 そしてリゾットは、当たり前のように鏡台の前にある椅子に座ったプロシュートの柔らかな金髪を、手慣れた様子で乾かしていく。 風を含ませるようにして髪を梳き、指先で頭皮を撫でてやると心地よさそうに目を細めた。 その表情があまりに小動物のようで可愛らしく、リゾットは思わず手を止めて見入ってしまった。 すると小動物がゆっくりと目を開けて「どうした?」と言うように見上げてきた。 リゾットは一旦ドライヤーを止めて鏡台に置くと訝しむプロシュートの顎を捉えて逆しまに口付ける。 「んッ〜〜!!ッ何だよ!」 リゾットのキスを強引に振り払って身体ごと向き直ったプロシュートは叫んだ。 しかし当のリゾットは無表情のまま顎に指をやって呟いた。 「リス…いや、ウサギか?」 「…はぁ?」 リゾットの言葉の意味が分からずキョトンとして見上げてくるプロシュートの頬を両手で包み、視線を合わせると囁いた。 「お前が、可愛いということだ。プロシュート。」 他の人間ならば気付くことも無いようなかすかな笑みを浮かべて言ったリゾットの言葉にプロシュートは忽ち頬を赤く染めた。 「ッー!!何…おま…!!」 可愛い、と言われてぶちのめした野郎の数は知れない。 だが、この男にだけは言われても良い。(むしろ言われたい。) この男が誰かに言うのを聞いたらその相手はその日のうちにいなくなるだろうよ。 女だろうが男だろうが関係ねぇ!カッと来て、気付いた時にはもう終わってンだ。 いや、今はそんな事ァどうでも良い。 俺がリス?ウサギ?何でそんなフワフワした弱そうな動物なんだよ! タカだとか豹だとかもっと美しい動物にしてくれ。 リゾットは…ライオンだな。 いつもはゆったり構えて寝てやがる。 だがいざという時になると、強い。 何より、誰より、頼りになる。 俺の、この世で一番、愛しい男。 黙り込んだまま身動き一つしないプロシュートの髪を梳き上げて、リゾットはどうかしたのか、と目だけで聞く。 そこでようやく思考から我に返ったプロシュートは「何でもねぇよ!」と見え透いた嘘を吐く。 頬を紅く染めながら、プロシュートはまた言った。 「良いから早く髪、乾かしてくれよ。」 「Si,amore.」 やれやれ、甘えるなら初めから甘えれば良いものを、コイツときたら… まぁそんな所も可愛いと思うのだから仕方ないのだが。 そのようなことを考えながら、リゾットは鏡台からドライヤーを取るとまたプロシュートの髪を乾かし始めた。 |