休日。 何か予定があるでもなく、ただただ暇を持て余していた。 俺はまだ朝も早いと言うのに目を覚ましてしまってからというもの、二度寝する気にもなれずだらだらと部屋で過ごしている。 以前買ったまま放ってあった本を手に取ってみても面白くなく、すぐに閉じてしまう。 音楽を掛けてみても、雑音にしか聞こえずこれまたすぐに電源を落とした。 遠乗りでもするか、と思い立って外を見遣ると雨が降り出したらしく、薄暗い空しか広がっていなかった。 「あ〜あ…暇だよなぁ〜」 誰もいない部屋に向けて呟いた言葉はそのままどこかへと消えて行った。 虚しさが襲ってきて溜息を吐く。 一度、二度、三度と重ねても、誰が応えてくれるわけでない。 どこかへ出掛けるという気にもなれずぼぅとしていると、携帯の着信音が鳴り響く。 「ったく、どこのどいつだ〜?」 乗り気しないまま手に取ると画面には『岸辺露伴』の文字。 急いでメールを確認するとたった一言こうあった。 『今すぐ来い』 珍しいこともあったものだと驚きながらも、俺は最大限急いで身支度を整え家を飛び出した。 *** 「遅いッ!」 玄関から出て来るなりその言葉を叩きつけられて、俺は少々不機嫌になる。 まぁ、返信もせず40分が経過しているとなれば気の短いこの恋人は怒るだろう。 だが俺は朝から調子が出なかった。 しかも雨降りの中、これでも急いで来てやったんだぜ? それなのにこの仕打ちはねぇんじゃねぇの? そんな思いが顔に出ちまってたのか、露伴は怪訝そうな顔で俺の顔を見て、とにかく入れ、というように道を譲った。 「邪魔するぜ」 そう声を掛けて入ると手から傘を奪われて代わりにタオルを渡される。 「風邪なんぞひかれては困るからな」 そっぽを向いて言う露伴に思わず笑みがこぼれてしまう。 「何がおかしいんだ、馬鹿!」 「いや、ありがとな。使わせて貰うぜ」 素直に礼を言えば、分かれば良いんだとぶつぶつ言いながら先に歩いて行ってしまう。 雨で濡れたのを拭いながら俺はリビングへと入る。 勝手知ったる、というやつで水滴を拭い終わるとソファへと腰を落ち着ける。 間もなく湯気の立つマグカップを二つ持って露伴が入って来る。 珈琲の良い香りが漂ってくる。 「ブラックで良いよな?」 「ああ、サンキュ」 二人ソファに並んで珈琲を飲む。 自分で感じているよりも冷えていたらしい、とても熱く感じるそれが一口ごとに身体に染み渡るのを感じた。 しかし、俺は一体どんな用があって呼ばれたんだ? ちらりと露伴の方を見ても、何か言って来るでなく、ただマグカップに口を付けている。 この空気が嫌なわけじゃないからそのまま流されておくとするか。 自分の部屋に居た時には沈黙が退屈で仕方なかったというのに、こうして二人で居るだけで何となく心が落ち着く。 もしかしたら、露伴も同じように暇を持て余していたのかもしれない。 カップをテーブルに置いてそっと言う。 「なぁ、呼んでくれてありがとな」 「……別に、暇だっただけだ」 「ああ、俺も死ぬほど退屈だった。だから、嬉しい」 「ふん」 そう言いながらも肩に背を持たせかけてくる露伴に愛おしさが増す。 この素直じゃないところが可愛いんだよなぁ。 自然笑みが溢れる。 「何を笑ってるんだ、裕也」 「いや、あんたが余りに可愛いからさ」 「かわ…! お前はまた馬鹿なことを…!」 「馬鹿かもなぁ、アンタのことに関しては」 「〜ッ!!」 怒りだす前に、露伴の手からカップを奪い口付けを落とす。 顔を離すと露伴は真っ赤になって睨みつけてきた。 ニヤリ、と笑いかければ悔しそうにそっぽを向く。 だから、そういう態度が可愛いってのに、わかってねぇなぁ。 手に持っていたカップを並べて置くと、露伴は俺の脇腹を蹴る。 痛くも何ともないが「いてっ」と声をあげて大袈裟に振る舞う。 「大袈裟に……痛くないだろうが」 そう言いながらも気にするような顔を向けてくれるあんたが好きだよ、露伴。 少しだけ近寄ってきた露伴の顔をを両手で引き寄せて、額を合わせて囁く。 「ああ、勿論嘘だ。アンタに心配してほしかっただけさ」 「まったく。困ったやつだな、お前は」 「好きなだけだ。アンタのことが、これ以上なく、な」 「……ふん」 より頬を染めて目を閉じた露伴に深く口付ける。 小さく服を掴んでくるその手が愛しい。 キスだけで止めることなど出来ず、身体のあちこちを弄る。 怒るなら後で好きなだけ怒れば良い。 だが今は俺に夢中になっててくれよな? |