先輩達に聞いてみよう。





「なぁ、アンタ達っていつからそうなの?」

メローネが唐突にそう聞いた。
ジェラートは飲んでいたコーヒーをテーブルに置くとメローネに向き合って答えた。

「そうって…恋人同士かってこと?」
「うん、そーゆーこと。」

今日は珍しくソルベとギアッチョが組んで任務に就いている。
ホルマジオとイルーゾォ、プロシュートとペッシもそれぞれ仕事でここには居ない。
このアジトには仕事の無いメローネとジェラート、そして懸命に報告書を作っているリゾットだけが居た。
リゾットは執務室でパソコンと睨めっこをしていて物音一つ立てない。
報告書を出しに来たジェラートと、ヒマで遊びに来たメローネが居間で鉢合わせてどうせならと二人でコーヒーを飲んでいた時であった。
メローネの話題がいつも唐突なのは慣れっこなのでジェラートは少し考えてから彼が欲しがった情報を与えてやる。


「…そうだね、ソルベとはもう五年以上の付き合いになるかな。…あの日のことは未だに忘れられない。」




今から六年ほど前、まだ二人は暗殺チームに入っていなかった。
ソルベが新人として配属されたチームにジェラートは居た。
ジェラートは十代も初めのころからギャングの世界に生きており、その物腰の柔らかさからは想像しがたいが、
  そのチームの中でも古株でなかなかのやり手だった。まだ右も左も分からないソルベを一から鍛え上げたのもジェラートだ。
このとき、ジェラートが自ら教育係に名乗りを上げたと言うのだから二人の関係は運命づけられていたのかもしれない。
ジェラートの扱きの成果か、ソルベの素質か、二人が組んだ仕事は必ず上手くいった。
幹部の覚えもめでたく、次の大きな仕事が成功すれば最年少幹部の誕生か、とまで噂されていた。

しかしその仕事はジェラートをねたむ他の幹部候補生たちの策略であった。
命を狙われ、怪我を負いながらも二人はギリギリのところで危機を潜り抜けて逃げていた。
ところが二人が物陰に隠れて一息ついたその瞬間に、どこからか銃声が聞こえてソルベがジェラートの目の前で倒れた。
慌てて駆け寄って抱き起こすとソルベの右わき腹が見る間に赤く鮮血で染まっていく。

『そ、ソルベ…ソルベッ!!!』
『ぐッ…ジェラ、ト…逃げ……ッ危ねぇ!!』




「ソルベはね、メローネ。自分が死に掛けてるってのに俺のこと気に掛けて逃げろって言ってくれたんだ。
  そして俺が動揺して気づけなかった二発目の銃弾からその身を挺して庇ってくれたんだよ。ソルベの肩とわき腹には未だに傷跡が残ってる。」
「へぇ〜〜!!すっごいね!その時はまだ恋人同士じゃあなかったんでしょ?」
「うん。だけどこの事件の後から俺たちは付き合い始めた。…ソルベはずっと前から俺のこと好きでいてくれてたらしいんだけどね。」

そう言ったジェラートの顔はとろけてしまいそうに喜びと幸福に満ちていて、見ていたメローネは恥ずかしくなって、過去の話の続きをねだる。

「で?で?その後どーなったの!?」
「うん?…あ〜、その時俺ブチ切れちゃって…その、あんまり覚えてないんだよね…。」
「ええ――ッ!!?そりゃあないよぉ!」
「ご、ごめん。…でも後で聞いたら『鬼神が降臨したようだった』ってソルベが。」
「ま…マジ?」

ビクゥッと体を震わせてメローネは少し怯えながら聞く。
ジェラートの方はと言えば、いつもと変わらぬふんわりと柔らかな笑みを浮かべて「その時にスタンドも発動したんだよ。」などと言う。
(その笑顔が逆に一番怖いんですけど…)とは口が裂けても言えないメローネだった。




一方、任務帰りの車の中で、ギアッチョもまたその恋人と同じようにソルベに二人の恋の始まりについて質問していた。

「な、なぁ。ジェラートとは、その…いつから、恋人なんだ?」

つっかえつっかえ言うギアッチョに、車を運転しているソルベは笑いを堪えながら答える。

「ん?そうだなぁ〜、俺がギャングになった時からずっと一緒にいるが、恋人同士になったのは今からちょうど五年と二か月と十三日前だ。」
「細けぇ…。ってかずっと一緒に居んのか!?」
「そうだぜ〜羨ましいか?」
「うるせぇよ!…それで、どういう経緯でそうなったんだ?」

ジェラートがメローネに語ってやったようにソルベもまたギアッチョに教えてやった。
それを聞いた後でギアッチョは質問した。

「なぁ、アンタはブチ切れてその場に居た奴ら皆殺しにしたジェラート見て引かなかったのかよ?」
「何言ってやがる!俺のためにそれだけ怒ってくれたってことだろ?喜びこそすれ怖がったり引いたりなんてしねぇよ。」

大人の顔をして笑うソルベの横顔を見て、ギアッチョは(カッコいいじゃあねぇか…)と少しだけこの先輩のことを見直して、憧れた。
こんな風に余裕を持って笑えるようになりたいと思う。
だが、今でさえジェラートを怒らせてはいけないという暗黙の了解がチーム内にある位だ。
そのジェラートがブチ切れたその時の怖さは一体どれほどのものだったのだろうかとギアッチョは恐いもの見たさで知りたくなった。

「なぁ、ジェラートの…」
「やめとけ。聞かない方がお前のためだ。…それにアイツは何も覚えてねぇよ。」
「わ、分かった。」

ソルベのあまりに真剣な表情にギアッチョは諦めることにする。
好奇心は猫をも殺す、という言葉もあることだ。やめておいた方が賢明だろう。
ギアッチョは最後にもう一つだけ質問した。

「メローネと、一応その、恋人なんだが……二人の仲が長く続く理由とかってあるのか?
  オレ、すぐにキレちまうから…アイツは変態だしよォ。」

コイツにこんなにもしおらしい所があったのかと驚きつつもソルベは可愛い弟分の悩みを真剣に考えてやる。

「そうだなぁ…。ま、互いに一番大切な存在だってことを認識し合っていれば喧嘩しても何とかなるってもんだぜ?
  それにな、アイツはお前が思ってるほどヤワでも飽きっぽくもねぇよ。」


『気楽にいけよ。』と言うようにニカッと笑い掛けるソルベに、ギアッチョは小さく頷くと「Grazie.」と言った。

話をしている間に車の外は見慣れた風景になっていた。もうすぐアジトに着く。
恋人が待っているとは知らない二人は、リーダーに報告する内容について話し始めた。