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ジョルノがパッショーネのボスになって半年が過ぎた。 ボスの交代は組織に大きな打撃を与えはしたが、幹部から下っ端まで一人ずつの情報に目を通し問題のあるものは片っ端から排除し切り捨て、 その一方で使えると判断した者は例えそれまで下っ端だったとしても幹部に任命していくという新しいボスの徹底ぶりと残忍さに 歯向かおうとする者はいなかった。 もし居たとしても数日後にはその人間はこの世にいなかった。 ボスにはジョルノが就き、組織の相談役としてポルナレフが依然として行動を共にしていた。 参謀の地位には呼び戻されたフーゴが就いて、新しく作った統括長(幹部たちとボスを繋ぐ役目だ。)にミスタが就いた。 トリッシュは学校へ通いながらもプライベートでジョルノ達に会っていた。 麻薬の扱いは医療目的以外を一切禁止した。 まだ騒々しさは少し残るが落ち着きを取り戻しつつあるパッショーネの穏やかな午後のことだった。 「ジョルノ、すまないが私の友人に連絡を取ってはもらえないだろうか? ずっと音信不通にしていたから今の状況を伝えておきたい。」 「構いませんよ。それで、誰なんです?その友人と言うのは。」 「空条承太郎というのだがSPW財団なら彼にすぐ繋いでくれるはずだ。」 「分かりました。」 ミスタがポルナレフにその友人とやらが誰でどんなことをしているのかを聞き出そうとしていた。 昔一緒に戦った仲間のスタンド使いで海洋学博士だが、会った方が早いといってそれ以上のことは、共に矢を捜していたことしか話さなかった。 フーゴはあまり興味がないようだったが、スタンド使いという単語にはさすがの彼も小さく反応していた。 いきなり掛ってきた電話の相手がジョルノだということにも驚いたが、その内容がポルナレフの事に及んだとき承太郎は常になくその表情を変えた。 「…なんだと?」 「ですから、J.P.ポルナレフさんがあなたにお会いしたいそうなのでイタリアまでご足労願えませんか?」 「分かった。では、日時を決めてもらいたい。」 「私どもはいつでも構いません。空港に迎えをやりますのでイタリアに就いた後のことはご心配なく。」 「そうか。…では来週の土曜、朝一番の便で行こう。」 「分かりました。ではその時に。」 電話を切ると承太郎は深い溜息を吐いた。「やれやれ」とつぶやきつつ机の上の写真を見やる。 一体どのような経緯でジョルノとポルナレフが行動を共にしているのか想像しようとしてやめた。会えば分かることだ。 そして電話によって中断させられていた研究書の作成の続きにかかった。 「ポルナレフさん、約束が取り付けられましたよ。来週土曜の朝一の便でこちらに来てくれるようです。僕もご一緒してお話を聞きたいのですが…」 「ああ、構わないだろう。私も久しく会っていない。昔の話を聞かせてやれるだろう。ミスタやフーゴも同席させてやると良い。 ミスタは特に知りたそうにしていたからな。それに護衛をつけなければ幹部どもが納得しまい。」 「そうですね。お邪魔でなければ。」 ポルナレフはそれからというもの今まで以上に饒舌になり友人との再会をとても楽しみにしているようだった。 ついにその再会の日が来た。 部下の一人に連れられてやって来た承太郎は、黒のロングコートの裾をはためかせ帽子を深くかぶり颯爽と歩いていた。 仮にもギャングの一員である部下たちを圧倒する威風堂々とした姿に一同は言葉もないようだった。 しかしジョルノだけはその身に受け継ぐ血統のために承太郎に何か好ましい、惹きつけられるような思いを感じていた。 「空条承太郎さんをお連れしました。」そう告げた部下に軽く礼を言い下がらせると、ジョルノは改めて承太郎に挨拶した。 「ようこそいらっしゃいました、僕がこのパッショーネのボス、ジョルノ・ジョバァーナです。 貴方とは何か繋がりがあるような気がしますよ。初めて会った気がしない。」 「ああ、宜しく。お前が感じているのは血統、血族によるものだ。それについては後で詳しく話そう。…ところでポルナレフの奴はどうしている?」 「はい、こちらに。彼はとても楽しみにしていましたよ。」 そう言って握手するとジョルノは自らが先に立って屋敷の中を歩いていき、承太郎を応接室へと案内した。 その部屋にはミスタ、フーゴ、そしてココ=ジャンボがいた。 「ようこそ!俺はグイード・ミスタ。よろしくな、シニョール空条!」 「僕はパンナコッタ・フーゴです。宜しくお願いします。」 「宜しく。・・・アイツが見えないようだが?」 二人に挨拶を返し握手をして部屋の中を見回し訝しみながらそう承太郎が言うと聞きなれた声が部屋中に響いた。 「承太郎ッ!久しぶりだなぁ、ここだ、ここ!!」 「おい…そりゃあどういうことだ?」 ココ=ジャンボの背から身を乗り出して手を振るポルナレフに驚き、そして呆れたように承太郎は聞き返した。 そして丁度お茶が運ばれて来たのでそれぞれがソファに座を占めた。 承太郎はココ=ジャンボが興味深いのであろう、手に取って観察していた。その姿は正しく研究者のそれであった。 一息つくとポルナレフが、ディアボロとの接触により足を失い、またジョルノ達に協力するために連絡を取り、 そしてどのように敵と戦い、仲間を失い、勝利したかを話した。それに続いて現状をジョルノが話して聞かせた。 途中幾度か質問をした以外はじっと耳を傾けていた承太郎だったが、話を聞き終えると大きく息を吐いた。 「身体は失ったがこうしてまた会えたんだ、十分さ。それにここは居心地も良いしな!」 「そう、だな。相変わらずで安心した。・・・すまんがコイツのこと頼んでも良いだろうか?」 「ええ、こちらこそ色々と相談に乗って貰っていますから。」 ポルナレフが何やら喚いていたがそれを軽くスルーして二人は笑顔で話を続けた。 「さて、お前の父親についての話だが、驚かずに聞いてほしい。お前の父親の名前はDIOといって、俺が殺した。」 『何だって!?』そう大声を上げて言うポルナレフ達とは違い、当のジョルノは至って冷静だった。 「どういうことですか?父には一度も会ったことが無いのでどのような人物だったのかは分かりませんが… 何故『父親の仇』と言える貴方に親しみのような感情を抱くのでしょう?」 「話せば長くなるんだが、簡単に言うとお前も俺も同じくジョースター家の血を引いているから、というのが結論だ。」 そう前置きしてから承太郎はジョースター家とDIOの因縁とその結末を聞かせた。 それを聞き終えてもジョルノの表情はさして変わらず、しれっとして言い放った。 「見も知らぬ父ですがご迷惑をお掛けしました。まあ、だからと言って僕が責任を感じる必要も、責任を取るつもりもありませんけどね。」 承太郎も呆気にとられたようだったが、すぐに笑みを浮かべ上機嫌にこう言った。 「さすがはギャングのボスになった男だな。肝が据わってやがる。」 その二人の様子を見て周りの者達は呆れるしかなかった。 昼食の席では承太郎が近況を報告すると、日本であった吉良吉影との闘いについてやスタンドの事などをミスタやフーゴが色々と質問をした。 あまり他のスタンド使いと接触することがないためだろう、承太郎の返答を熱心に聞いていた。 承太郎の方は普段必要以上のことは話さないため、しゃべり疲れたようだった。 承太郎はこのまま1週間ほど滞在することになり、屋敷の一室へ通された。 午後は会合があるらしく、ジョルノはミスタと数名の部下を従えて出かけて行った。 自然一人きりになった承太郎はこれと言ってすることもなく与えられた部屋で寛いでいた。 しばらくするとドアがノックされた。ドアを開けるとそこにはフーゴが立っていた。 「相談に乗ってほしい」と言われ部屋に迎え入れるとテーブルを挟む形でソファに腰掛けた。 フーゴはいきなりすみません、と前置きするとすぐに話し出した。 「彼らは僕のことを何の躊躇いもなく仲間だと言いました。しかし僕は彼らの元を離れた。そう、裏切ったんです。 結局ボスにも会っていませんし、仲間の死に目にも会えませんでした。彼らの本当の苦しみは解らない…。 そんな僕がこのまま参謀という重役を続けても良いのでしょうか?」 知的な顔を苦悩に歪めそう尋ねてくるフーゴに、承太郎はしばし考えてから答えた。 「…お前は必要とされ、その地位にいる。おそらく他の者では駄目なのだろう。 そして彼らの苦しみを知らないからこそ、冷静に物事を判断し作戦を立てることが出来ることも出てくるだろう。 その上ジョルノやミスタが信頼を寄せる者にしか任せられないとなればお前しかいないのではないか?」 ゆっくりと静かに、しかしはっきりとした口調で告げられた承太郎の言葉を心に刻み込むかのように黙り込んだフーゴだったが、やがて顔をあげてこう言った。 「ありがとうございました。彼らが与えてくれた僕の役割が見えてきたように思います。 …それに、彼らには僕みたいなのが付いていなくちゃあ心配だ。」 最後にニヤッと笑った替えを見て、承太郎は溜息を吐く。 やはり裏社会を生きる者達、一癖も二癖もある奴ばかりだ、と心の中で思った。 そのころジョルノとミスタは会合に向かう車中で話し合っていた。 「いや、全くもってすげぇ話だよな。」 「ええ、さすがに僕も少し驚きました。まさか父が吸血鬼だったなんて…」 「随分とあの人と親しくしていたが、承太郎さんは親父さんを殺したんだろ?何か…こう、無いのか?思うところがよぉ。」 「フフフ、何です?ねぇミスタ、妬いてくれているんですか?」 「違ぇよ!!ったく、どーしてお前はそう恥じらいもなく…」 「すみません。だってミスタ顔に出すぎですよ。…父の件は本当に気にしていませんよ。 それに、一度も会ったことのない人…いいえ吸血鬼ですか、を父とは思えませんしね。」 今だったら承太郎さんと一緒に戦いますよ、と笑顔で言うジョルノにその恋人はしょうがない奴だと力無く笑うしかなかった。 「そういうミスタは彼をどう思います?出来れば敵にしたくはない人物ですね…」 「あぁ、あの人が本気になったらかなりヤバいだろ。親しくしておくに越したことは無いよな。 だけどよぉ、俺達の『ファミリー』にはなってくれそうもないぜ?」 「そうですねぇ…まぁ、彼とは気も合いますし大丈夫でしょう。」 ミスタの手を取り、指先に口付けながら言うジョルノはにっこりと、輝くような笑顔を向けた。 ジョルノは真っ赤になって手を引っ込めるミスタを可愛いと思い、それと同時に承太郎に取られないようにしなければと思った。 そうこうしている内に会合のホテルへ着き、外からドアが開くと同時に恋人に見せていた柔らかな表情をさっとギャングを統べるボスのものに変えた。 ジョースター家の人間の持つ凛とした美しさ、父親譲りの色気とカリスマ性を併せ持つ彼に見惚れぬものはいない。 彼の放つオーラは人々を魅了する。それは彼がボスに就任した後、特に顕著になった。数年後には彼に意見する者はこの国にはいなくなるだろう。 唯一居るとすればその最愛の恋人だけだろうか。 彼の伝説はまだ幕を開けたばかりである。 |