困った。だけど、良かった。





まったくアイツには困ったものだ。
二歳年下のくせに俺のことをおちょくって揚げ足を取る。
その上『シーザーちゃん』だなんてふざけた呼び方で話し掛けてきやがって、ベタベタ抱きついてくる。
両親を幼い頃に亡くしているって聞いたが、その反動でだろうか随分な甘ったれに育ったようだ。
いや、そんなジョセフのことをメチャ可愛いと思っている俺が一番困ったものだ。
そう考えているうちにジョセフが鼻歌混じりにやって来て抱きついてきた。


「やほー!シーザーちゃん。なぁに考え込んじゃってるの?付き合ってた女の子にでも振られた?」
「違う。女の子に声は掛けるが付き合っている子はいない。」
「えぇッ!そーなの??それは…信じらんないよ、うん。」
「そんなに俺はモテるように見えるか?」
「べっつにー!恋愛依存症なんじゃあないかな〜って思ったの!」
「そんなわけあるか!今は片思い中だ。」


テンポ良く会話が進むうちについ口が滑って言わなくても良いことを言ってしまった。
後悔してももう遅く、ジョセフが目をキラキラさせて俺を見ている。
マンマ・ミーア!よりにもよって本人に聞かれるとはな。


「何ナニなぁに??伊達男のシーザーちゃんが片思いなの!?」
「…ほっとけ。」
「それは聞けないお話ってやつよン!なーなー良いだろ?どんな子?教えてチョーダイ!」


なーなーと猫のように付きまとって来るジョセフに俺はうんざりする。
ここで素直に『お前が好きなんだ』と言ってしまえば運命は三つ。
一、拒絶されてジ・エンド。
二、冗談だと思われてスルー。
三、意外ッ!それは両想い。
う〜ん。可能性が高いのは二かな?コイツの場合。
俺が考え込んでいると、拗ねたように口をとがらせてジョセフが言う。


「もー!シーザーちゃんのケチ!!せめてどんな子か位教えてくれたって良いじゃんか!」
「あ?どんな子かって?そうだな。…お転婆で、お調子者で、家族想いで、可愛い子だよ。」
「わっかんないよ!ん〜、もっとさ、外見的なの無いの?」
「艶やかな黒髪で、大きくて明るい緑色の瞳。まつげも長いな。唇は薄いピンク色。」
「すっごい美人じゃん!どこで会ったの?」
「あ〜?」


それを聞いちゃうわけね、お前は。困るよなぁ…
思い切って伝えちまおうか。
こんなにヒント出してて分かんねぇんだからこのままじゃあずっと片思いだ。
さっきの三托のうちオレにはどの結果が待ってる?


「今、目の前に居る。」
「ほえ?」


驚きのあまり目を見開いてヘンテコな声を上げたジョセフはそのまま固まってしまった。
俺としてもこんな反応が返ってくるとは思ってもみなかったから慌ててジョセフの肩を両手でつかんで揺さぶった。


「お、おい!ジョセフ…ジョセフ!?」
「にゃ〜〜ッ!!!」


いきなり叫んだジョセフに今度は俺が驚かされてジョセフを掴んだ手を離した。
するとジョセフは俺の目を真正面から見て、じわじわとその頬を染めると、いつもの威勢の良さと騒がしさからは考えつかないような小さな声で囁いた。


「な、それって、俺の事が好きってことで良いの?」

あまりの可愛さに眩暈がしそうだったが、アイツの言葉に俺はそうだ、と肯いた。


「お前が好きなんだ、ジョセフ。」


そう口に出して言うと、ジョセフは耳まで赤くなって俺に飛びついて来た。
倒れそうになるのを踏ん張って何とか耐え、ジョセフを抱きとめる。


「俺も。…俺もシーザーちゃんのこと、大好きだ。」



耳元で好きな相手にそう囁かれてどうも思わない男が居るか?いや、居るはずがない。
しがみついて来るジョセフを一度ギュゥゥッと抱きしめて、俺は耳に口を付けて言った。


「ジョセフ、キスしようぜ。」


ビクッと体を震わせて、ジョセフは小さく頷いた。
抱きしめ合っていた体を離して、つやつやした薄桃色の唇に俺は口付けた。
ジョセフは恥ずかしいのかずっと俺の服を握っていた。
そこがまた可愛くって仕方がない。

さっきの三托、オレを待ってたのは三つ目の結末だったようだ。
幸せってこういうのを言うんだろうな。あったかい気持ちで満たされてる。


ジョセフ、俺は浮気なんか絶対しねぇから安心しな!
オレは惚れた相手には一筋なんだ。


だがな、女の子を褒めるのは別だぜ?ありゃあ礼儀だ。
そこんとこはハッキリしといてくれよ。それで拗ねられちゃあキリがない。

「愛してるぜ。この世界でお前だけだ、Amore mio!」