Buon Natale!





「Buon Natale!!」


勢いよく扉が開けられて僕らは彼女の所有する家へと招き入れられた。
「いらっしゃい!」そう言ってトリッシュは一人ひとりと抱き合って挨拶した。
僕、ミスタ、フーゴ、それにココ=ジャンボとポルナレフさん。


今日はナターレの初日、12月24日だ。これから3日間は誰にも邪魔させずに楽しく過ごす。
そのために色々とやらなければいけない事があってここ数日はあまり寝ていないのだけれど、そんな疲れも吹き飛ぶほどに楽しみだ。


「まぁ!貴方たちパンドーロ買って来たの?」
「いや、お酒とそれ位しか思いつかなくて…」

すみません、とフーゴ。それに明るく答えてトリッシュは言った。

「良いわ!4人とピストルズで2日半あればきっと食べられるから。」
「もしかして、朝も昼もこれなのかよ?!」

うんざりだ、とミスタは言いたそうだったが、その周りを漂うピストルズたちは嬉しそうに
「ヤッタゾ、ケーキダッ!!」「ミスタノ分マデ食ッテヤルヨ!」などと口々に叫んでいて皆の笑いを誘った。


「トリッシュ、何か手伝うことはありませんか?」

僕がそう聞くと、シャンパンとグラスを用意してほしいと頼まれた。
今日のために彼女の好きなロゼを用意してある。数日前に届けたのだ。
僕はそれを取りに行き、ミスタは乗って来た自動車から荷物やプレゼントを運び、
フーゴはパンドーロを手にトリッシュについてキッチンへと向かった。




先ほどここを「トリッシュの所有する家」と言ったが、元はブチャラティの家だ。
遺品の中から権利所が出てきて、話し合いの結果トリッシュの物として手続きが行われた。

僕らが出逢って、彼らと別れてからもう9か月。
彼女にはこの家は辛いとも思ったが、何より彼女の強い希望でこの家に集まろうと言うことになったのだ。
彼女曰く『彼らを身近に感じられるから』だそうだ。
女性は強いのだと言うことを思い知らされた。

僕らはこの家の近くの高台に彼らの墓を作った。
今日もここへ来る前に挨拶に行ったのだけれど、すでに綺麗な白バラの花束が置かれていた。
トリッシュが供えたのだろう。
僕らはカサブランカの花束をそれぞれの墓前に供えて祈りを捧げた。


(ブチャラティ、僕らは進むべき道を間違ってはいないだろうか?)

(アバッキオ、僕らは心に刻んだ信念を貫いて生きているだろうか?)

(ねぇ、ナランチャ、僕らは真っ直ぐに歩んでいるだろうか?)

(願わくは、貴方たちが安心して眠りについていることを…)




僕が長い祈りから顔を上げた時、ザァッと潮風が吹いた。
彼らが僕の問いに応えたかのようだった。


本当の家族ではないけれど、それ以上の存在である仲間と温かな聖夜を過ごすために僕らは踵を返した。




さて、ようやく準備が整ってパーティーの始まり。

「Cin Cin!」

グラスを合わせて乾杯した。
僕らの笑い声とピストルズたちの騒ぎ声。
トリッシュお得意の美味しい料理と上等な酒。
何よりも、大好きな人たちと笑いながら過ごしているという事実。

僕は今までで1番幸せなナターレを過ごしている。

そう思ったら余りの幸福感と、彼らが居ない寂しさに涙が溢れ出しそうになって、トイレに行くと言って僕は席を立った。
皆の前で泣くなんてことは出来ない。
楽しいひと時をしんみりさせてしまうし、何より恥ずかしい。
キッチンに行き気持ちを落ち着けようとしていると、ミスタがやって来てこう言った。

「やっぱり泣いてやがったな。」

泣いてなんかいない、そう言いたかったけれど何か言葉を発すれば本当に泣いてしまいそうで首を左右に振ることしか出来なかった。

「そんな赤い眼で否定されてもなぁ〜…。嬉しくったって泣いて良いんだぜ?」
「ッ〜!」

もの凄く優しい顔で彼がそう言うものだからついに堪えられなくなって僕は泣いた。
ギュウッと抱きしめられて苦しいくらいだったけれど、流れる熱い涙と声を堪えていたので
咽喉も痛くて、胸も苦しくて、途中から何が何だか分からなくなった。
涙が止まると、僕はミスタにお礼を言った。

「Grazie,ミスタ。今日は今まで生きてきた中で最高のナターレです。」
「そいつは良かった!」
「貴方のおかげですよ。」
「嬉しいこと言ってくれるなぁ、Amore mio.どうした?」
「今日くらい良いでしょう?」
「いつもでも良いんだぜ?」

こんなことを言い合っていると、トリッシュがやって来て大きな声で言った。

「ちょっと貴方たち、いつまでこんな所でイチャついてるつもりなの!?」

腰に手を当てて言う彼女は呆れかえっているようだった。
僕たちは顔を見合わせて噴出し、それにつられて彼女も笑いだした。
居間からNo.5の泣き声と、フーゴの叱り声が聞こえてきてミスタは「またかよ…」と項垂れながらもキッチンを出て行った。

「ねぇ、トリッシュ。僕はこんなにも幸せなナターレは生まれて初めてですよ。」
「何言ってるのよ!これから毎年、今までで最高のナターレにするんだから当たり前でしょ?」

当然ッ!という顔で言われて、僕は可笑しくて笑い出してしまった。
そうか、これからは家族が、大切な人たちがいるのだから共に過ごして祝えば良いのか。
そんな当たり前の事が当り前じゃあなかったこれまでが、少しだけ切なかった。
でもそれよりも嬉しさが勝った。

「ナターレは始まったばかりよ!これから楽しまなくってどうするの?」
「そうですね!」


僕らは姉弟のように手を取り合って騒がしい居間へと向かった。
最高のナターレを楽しむために!