「あの、提案があるんですが。」





とぉるるるん、とアジトの電話が鳴った。
どうせメンバーの誰かだろうと思って取ってみれば聞き覚えのない少年の声が聞こえてきた。
リゾットは訝しみながらも「誰だ。」とだけ聞き返した。

「どうも初めまして。僕はジョルノ・ジョバァーナ、次のボスになる人間です。」
「……何だと?」
「僕たちも貴方たちもボスを倒したい。そこで、どうでしょう。協力しませんか?
  僕がボスになった暁には貴方たち暗殺チームの皆さんの地位と報酬は保証しますよ。」
「…何、だと?」
「ですから、一度うちのチームと話し合いを致しませんか?とお誘いしているんです。」
「…良いだろう、では……明後日の夜八時はどうだ?」
「良いですね、では僕が今から送る場所に全員揃って来てください。それでは。」

一方的に電話は切れて、パソコンからメールが届いた合図が聞こえた。
全く恐ろしい。どうやって調べたのか知らないがどうやっても相手には敵わない気がした。
声はまだ変声期を終えたばかりのようだったが…
そのようなことを考えながら届いたメールを開くと、そこにはアジトからそう遠くないレストランの地図が出てきた。

その夜リゾットは緊急に招集を掛けて会議を開いた。

「…と言う訳なんだが、皆どう思う?」

リゾットが尋ねてもメンバーは全員がぽかんと口を開けたまま固まってしまい反応が無い。ただの 暗チのようだ。
ではなく、リゾットは珍しく困ったように眉をしかめてジェラートに声を掛けた。

「おい、ジェラート。」
「え、あ…うん。あまりの事に驚いちゃって。…う〜ん、どうって言われてもねぇ。相手はスタンド使いなの?」
「まず間違いないだろうな。しかも少年だ。」
「何だって!!?」

声を揃えて皆が叫んだ。そしてプロシュートがついにキレて言った。

「オイオイ、リゾットさんよぉ!!そんなガキなんぞに屈して良いと思ってンのか!?」
「そうだぜ、プロシュートの言うことは正しいッ!俺も全然納得いかねぇぜ!!」

とはギアッチョの言葉。ソルベもホルマジオもうんうんと頷いていた。
しかしそこでメローネがいつもの甘えた声で言った。

「良いんじゃあない?だって相手は勝算があってそういう話を持ち掛けてきたんだろ?」

皆が勢いよくメローネをにらむ中、イルーゾォが小さな声で意見した。

「俺も…!メローネに賛成だ。一応は俺たちのこと考えてくれるみたいだし、
  何でも知られてるって言うなら俺たちは圧倒的に不利だ。相手のこと、何も知らないんだから。」

冷静な意見にジェラートも同意する。
メローネは小さな声で「何この差?」とぼやいていた。

「そうだね、二人の言うことはそう間違いじゃあない。
  条件もそれほど悪くは無いし…まずは会ってみてから、で良いんじゃあないの?」

まさに鶴の一声でチームの意見は決まった。
プロシュートとギアッチョは最後まで納得がいかないようだったが、多数決で七対二になってやっと諦めた。
特にプロシュートはペッシが自分と同じ意見でなかったことを問い詰めて
「ごめんよ、兄貴、でも!皆が傷つかないならその方が良いってそう思ったんだ。」
と言われて何も言い返せなくなっていた。
他のメンバーも「ペッシ…!」と感激して、一同はまた絆を深めた。




そして運命の日がやって来た。
先にイルーゾォが鏡を通ってホルマジオと共に店に向かった。
その他のメンバーは現地集合で、先行組のメールを待った。

『どうやら今日は貸し切りらしい。男が六人に女の子が一人。ボスの娘かもしれないな。
  今のところ危険は無さそうだ。こいつらもスタンドは出していない。普通に店に入って平気そうだぜ。
  皆が入ったのを確認してから俺らも表にまわって入る。』

ホルマジオからのメールを受けて、メンバーはそれぞれ警戒は怠らずに入店していった。
まずソルベ、ジェラート、ギアッチョ、メローネ。続いてリゾット、プロシュート、ペッシ。
少し間を置いてホルマジオとイルーゾォが。
メンバーは案内されるままにテーブルについた。
全員が揃ったところで金髪の変な巻き毛の少年が口を開いた。

「ようこそ、暗殺チームの皆さん。来て下さって嬉しいですよ、僕がジョルノ・ジョバァーナです。
まずは自己紹介を致しましょう。もちろんスタンド能力も隠さず話してくださいね。
嘘は無しですよ、僕たちは同じ目的の下に集まった同志なんですから。」

反論を一切許さない態度で言い放ちジョルノは「では」と自らのスタンドを発現させて能力の説明をした。
そしてブチャラティ、アバッキオ、ミスタ、ナランチャ、フーゴ、トリッシュの順に自己紹介していった。

「私の名前はトリッシュ・ウナ、どうやらパッショーネのボスが父親らしいわ。でもそんなのどうでも良いわ。
スタンドは近距離パワー型のスパイス・ガール、何でも柔らかくする能力よ。よろしく。」
「何?!ではお前がボスの居所を知っているのか?」

そう聞いたリゾットにジョルノがニヤリと形容するのが相応しい笑みを浮かべて答えた。

「いいえ、この方たちが協力して下さるんですよ。」

そう言うとジョルノはポケットからケータイを取り出してどこかに掛けると「入って来てください。」とだけ言って通話を切った。
数分もしないうちに美しい銀髪を背中まで伸ばした男(?)とヘアバンドからあちこちに髪を飛び出させた男が入って来た。

「ご紹介します。ボスの親衛隊だったティッツァーノさんとスクアーロさんです。」

上品に会釈したティッツァーノは無駄に距離の近いスクアーロをそのままに話し出した。

「どうも、わたしがティッツァーノ、そして彼がスクアーロ。わたしのスタンドはトーキングヘッドと言って嘘をつかせる能力、
彼のスタンドはクラッシュという水分のある所にサメを潜ませてそこに敵を引きずりこんで殺す能力です。」

暗殺チームのメンバーは開いた口が塞がらず言葉も無くただ椅子に座っていた。
その様子を見てジョルノは呆れ返って言った。

「さぁ!いつまでも馬鹿みたいに口を開けていないで自己紹介を!二度は言いませんよ、無駄は嫌いなんです。」

命令されてようやく我に返った面々はリーダーの顔を見た。
リゾットは溜息を一つ吐くとおもむろに口を開いた。

「俺がこのチームのリーダー、リゾット・ネエロだ。スタンドはメタリカと言う。
鉄分を操作してステルス機能や体内からカミソリなんぞを飛び出させることが出来る。…これで良いか?」
「えぇ、ありがとうございます。さ、残りの皆さんもどうぞ?」

極上の笑顔を向けられて、あのジェラートさえ畏怖を覚え、ここは年齢順に行こうと目配せし合って次々に自己紹介をした。
全員が済むとジョルノは皆に向かって言った。

「次のボスは僕です。参謀にはブチャラティに就いて貰うつもりでいます。
  とは言え、僕は独裁主義者ではないので毎月定例会議を開きます。そこには各チームから一人ずつ出て貰います。
  しかし、暗殺チームからは二人。その会議では多数決や投票に重きを置きたいと考えています。…この意味が分かりますね?」
「あぁ。」

リゾットが肯くのを見てジョルノは満足そうに「良かった。」と言った。

「ところで、親衛隊の二人はどうするんだ?」

これを聞いたのはソルベだった。ジョルノは完全に彼らの事には触れなかった。
この問いにはティッツァーノが麗しい笑みを湛えて応えた。

「私たちはジョルノ様にお仕えします。今よりも条件が良いものですから。
まぁ、それよりもまずジョルノ様とわたしはとても気が合うのですよ。」

「ねぇ?」と問いかけるティッツァーノにジョルノは神々しい笑みで「はい。とても、ね。」と応えた。
その場に居た、当人たちとナランチャ、スクアーロを除いた全員がぞっとした。
「この二人に逆らってはいけない。」と言う警告が頭に浮かんだ。

「さて、決行の日ですが…。」

いつにしますか?と皆に向かってジョルノは聞いた。
リゾットは暗殺チームに次の指令がまだ来ていないことを報告した。
ブチャラティはトリッシュの安全を考えると早い方が良いだろうと提案した。
そしてティッツァーノがボスは今ヴェネツィアに居ることを告げた。

「早い方が良いのでしたら一週間以内が良いかと思います。移動されては面倒ですから。」
「だけどよぉ、どうやってボスをその座から引きずり下ろすんだ?」

ティッツァーノの言葉が終わるとすぐにホルマジオが聞いた。
それに対してジョルノは何でも無いようにこう言った。

「話し合いですよ。…彼は娘の事がとても可愛いらしいのでトリッシュには悪いんですが取引の材料になってもらいます。」
「オイッ!お前はそれで良いのか、シニョリーナ?!」

ホルマジオは信じられないと言うようにトリッシュに聞いた。しかし当の本人はさらっと言い返した。

「えぇ、良いわ。だって今まで一度だって会ったことも、会いに来てくれたことも無いんですもの!そんな人を父だなんて思えないわ。」
「あ…そぉ。」

呆気にとられたホルマジオは情けない返事しか出来なかった。そんな彼に向けて声が掛けられた。

「悪ィな、ジョルノもトリッシュも気が強くて一度言い出したら聞かないんでね。」

そう言ったのはミスタ。その隣でフーゴもやれやれと言うように首を左右に振っている。

「話がずれましたね。で、明日決行するのはどうですか?」
「何〜!!?」

これには全員が驚きの声を上げてジョルノを見た。皆の注目を受けた本人は不思議そうな目で皆を見つめ返して聞いた。

「いけませんか?」
「いけませんッ!!」

皆が声を揃えて反対するのでジョルノも渋々諦めて、五日後に決行となった。
波乱の幕開けである。

その頃ボスはドッピオと「とぉるるるん」とのん気にお喋りしていた。