会えたと思ったらスグまた来年。




七月七日、七夕。
織女と牽牛の年に一度の逢瀬の日。
今年は晴れるだろうか、それとも雨だろうか?
俺は晴れてほしいと願った。
何故なら伝説の二人だけではなく、俺にとっても年に一度の逢瀬の日だからだ。



エジプトでの闘いからもうすでに三年は経っていた一昨年の七夕。
俺はその夜、俺の織女に会った。
キラキラと緑色の光を振り撒きながらあいつはやって来た。
初めて会った時のようにストール…いや、ここでは羽衣とでも言っておくか。
その羽衣を身に着けて、少し困った顔で笑いながら俺に向かって言った。

「久しぶり、元気そうで何よりだよ。」

俺はあまりの事に絶句したまま何も出来なかった。

「お盆まで待てなくって今日来てしまったんだけど……迷惑だったかい?」
「そんなことはねぇが……」
「じゃあ良かった。追い返さないでくれよ?」
「そんなことするはずがねぇ!」
「フフ、嬉しいよ。」

その年はただ会えたことに驚いて下らない時間を過ごしてしまった。
まさかその日だけしか会えないなどとは思わなかったからだ。
俺の近況を知りたがるあいつの質問に応えてやるだけに終わったように記憶している。
そしてその日の深夜、七月八日に日付が変わるその瞬間、
典明は、俺の織女は風に乗って帰ってしまった。
「じゃあね、承太郎。また来年!」
その一言だけを俺に残して。

一昨年から七夕は俺にとっては特別な日だ。
どんな予定や約束事も放り出して待っている。
実に女々しいようだが、俺にとっては重大事だ。


去年は俺があいつを質問攻めにした。
七夕以外の一年は何をしているのか、まずどこに居るのか。
何故ショールを身に付けているのか、そしてこれは夢か現か。
他のヤツには見えるのか、それとも俺だけにしか見えないのか。
そしてもし雨が降ったらどうなるのか。
一度に多くのことを聞きたがる俺に苦笑しながらも、
典明は一つひとつ丁寧に説明した。

「僕は一年中君の傍に居るよ。まぁ、見えてはいないと思うけど。」
「ずっとか?」
「うん、でも時々は両親の様子も見に行ったりしてる。ポルナレフとかもね。」
「霊体ってヤツか。便利だな。」
「まぁね、でも誰にも気づいて貰えないのは寂しいかな。」
「……すまねぇ。」
「気にしないで良いよ。それで、これは夢かって言うとそうじゃあない。現実だよ。」
「そうか。」
「でも他の誰にも見えない。承太郎にだけ僕の姿が見えてる。でもスタンド使いには光は見えるかも。」
「ってことは、傍から見りゃあ俺は独り言をブツブツ言ってる危ないヤツってことになるな。」
「アハハ!そうなるね!」

楽しそうに笑うあいつを見て、俺も笑顔になる。
実に一年ぶりと言っても良いだろう。

「それで、どうしてそんなもの巻いてるんだ?」
「あぁ、コレ?……傷跡を隠すためさ。お腹の向こうが見えるなんて気味悪いだろ?」
「悪い。」
「良いって!でも、どうしてなんだろう?霊体ならイメージで治せそうなものなのにね。」
「最期の姿ってことなのか?」
「う〜ん、そうかもね。」

分からないや、と困ったように笑う典明に、俺は重要なことを聞いた。

「ところで、雨が降ったらお前はここへ来られないのか?」
「そうみたいだよ、残念だけど。何せこの日は七夕なんだからね。」

それ以外にも典明が見てきたこの世界の様子を聞いたりしているうちに
時間というのは冷酷にも光のように過ぎ去った。
その年もまた、日付の変わる瞬間に帰っていった。
「じゃあね、承太郎。また来年!」
前の年と同じ言葉を俺に残して。


そして今年、天気予報は今のところ『晴れのち曇り』だ。
どうか今日だけは降らないでくれ……!
大学の試験が近いというのにそればかりが頭にあって課題も全く手付かずだ。
図書館で課題を広げたまま何も進んでいないそれと睨みあうのにも飽きてきた。
溜息を一つ吐いて俺は家路を急いだ。
一つ二つ信号を無視したが、まぁ良いだろう。
漆黒のブレラが閑静な住宅街を走り抜ける。
玄関を開けるとお袋がエンジン音を聞きつけてやって来ていた。

「お帰りなさい、承太郎。」
「あぁ。」
「今通ってきたら貴方の部屋から光が漏れてたけれど、新しいランプでも買ったの?」
「いや、そんな物は買ってねぇが……オイ、光だと!?」
「そうよ、緑色の……」

お袋の話を最後まで聞いてる余裕はなかった。
来ているんだ。
今年も、あいつが……!