Je me meurs de sommeil!






今、僕はすこぶる機嫌が悪い。何故って?そんなことは決まっている。
昼過ぎ(と言ってももう夕方とも言える時間だったが)に始めた原稿がノリにノッて深夜三時半まで、
トイレに行ったりコーヒーを飲んだりはしたが後はずっと机に向かっていた。
とても満足のいくものが出来上がって、ヘトヘトになりながらも風呂に入った僕は四時半になって
ようやく心地良いお気に入りのベッドに入ることが出来たのだ。
自分でも驚くほど速く眠気が襲ってきて、よほど疲れていたんだと理解しそのまま睡魔に身を任せた。


しかしその幸せな眠りを妨げたものが居る。
まだ七時前だというのに玄関のチャイムを鳴らした阿呆が居るのだ!!
僕はつい二時間半前にベッドに入ったというのにだぜ!?これを怒らずして何を怒れって言うんだ。
無視を決め込んでいてもしつこくチャイムは鳴り続けて、眠りよりも怒りが増してきた僕は
一体どこのどいつが僕の安眠の邪魔をしたのか会ってとっちめてやろうと思い立って、寝間着のまま玄関へと向かった。
あまりの眠さと怒りに着替えるなんてことは思いつきもしなかった。
まぁ、今となってはそれを悔いているわけだが…。


そうそう、誰が来たかというとだ。あのナルシスト全開の僕の「恋人」噴上裕也だった。
一層僕は怒りを募らせ扉を開けると裕也は臭いで察していたのか「何怒ってんだよ露伴。」などとほざきやがった。

片眉を上げて顔を少し傾けて覗き込むように言うその整った顔が物凄く憎らしかった。
いつもに増して無愛想に「何の用だ?」と聞いてやれば「学校に行くのに通り道だろ?だから行く前に会って顔、見ておこうと思ってよォ。」と
さも自分が正当な主張をしていると言わんばかりのもの言いに、僕はついにプッツンして
噴上の何分も(もしかしたら何十分も)かけてセットしたであろうその髪を両手で掻き乱してグシャグシャにしてやった。


「うわっ!何しやがる、露伴、やめろっての!」
「うるさいッ!!僕は死ぬほど眠いんだ、まだ二時間半も寝てないんだぞ!?
  それなのにこんな朝っぱらからしつこくチャイムを鳴らしやがって!」
「え、そうだったのかよ。悪ィ、だから部屋着なのか。可愛いな。」
「お前は…!全く反省してないらしいな。もう帰れ!」
「だから悪かったって!仕方ねぇだろ、知らなかったんだから。」
「もう良い!!お前なんぞとっとと学校へ行ってしまえ!この顔だけ男!」
「こんな風にお前を怒らせたままで学校なんて行けるかよ!」


どんな理由だ!僕は呆れて何も言えなくなった。
僕は眠くて、せっかく寝たところを邪魔されたことに腹を立てているのにだ、裕也のヤツはまだこの家から出て行こうとしない。
それどころか、無理やり閉めようとした扉を逆に強引に開けて入って来てしまった。鬱陶しいにもほどがある。
僕はただ「うるさい、黙れ、帰れ」とそれだけを繰り返していたのだが、裕也の方は「なぁ、許してくれよ。悪かった、な?頼むから機嫌直せって。」と、
僕の歩く後をどこまでもついて来てついには寝室にまで入って来た。
とうとう僕はどうでも良くなって、うるさく付きまとう裕也を放ったらかしにしてベッドの中にもぐり込んだ。


「僕は眠い。寝るんだよ!分かるか?だからお前は早いトコこの家から出て行ってくれ。」
「何でだよ!別に良いだろ、お前の寝顔見てるくらい。」
「……は?」
「学校なんて言ってもつまんねぇし。ここに居させてくれよ。眠そうな顔も可愛いぜ?」


僕は、僕の中でコイツのイメージが崩れる音を聞いた。僕の寝顔が見たいから学校に行きたくない、だと?
確かに僕だってそう真面目な方ではないから自分の中で優先順位を付けて他人を驚かせるような選択をして行動することなんてしょっちゅうだ。
だが裕也のヤツは何と言った?恋人の寝顔を見ていたいから学校はサボる…?
何度も同じことを繰り返して鬱陶しいだろうが、僕は何度も言いたくなるほど驚き呆れているのだ。
僕の気が済むまで何度でも聞いて貰おう。
しかも僕の眠そうな顔が可愛い?!
僕は思わず頬を染めてしまったらしく、顔が熱くなった。そんな顔を見られるのが嫌で布団を引き上げて隠れた。


「露伴、そんなに恥ずかしがるこたないだろ?見せてくれよ。」
「うるさい、黙ってろ!」


キシッと音を立ててベッドが鳴った。裕也が腰を掛けた部分が下がる。
布団をめくられては目が合ってしまうので僕は布団に隠れたままで寝返りを打って裕也に背を向けた。
それに気づいた裕也は布団の上から覆いかぶさって来て言った。


「そういう反応がスゲー可愛いんだってこと、分かってる?」


僕はもう嫌になった。何がって?あんなことを言われて嬉しがってる僕が、だ。
あ〜〜!!どうしてコイツを相手にするとこうも簡単に心を乱されてしまうのだろう。

これが世に聞く「恋」の仕業だというのだろうか?
そうだとして、それが嫌じゃあないってんだから僕は相当裕也の事が好きなんだろう。

…絶対に本人に言ってやるつもりはないが。


「お〜い、露伴?マジで寝ちまったのか?」


裕也が聞いてくるその声が心地良くて僕はそのまま眠ってしまった。




僕がすっきりと目を覚ますと、隣では裕也が布団にくるまって美しい顔で眠っていた。
その安らいだ顔はいつもよりもコイツを幼く見せていて、不覚にも可愛いと思ってしまった。
裕也の言わんとしていたことが分かって少し悔しい思いもしたが、この寝顔をまだ見ていたくて黙っていた。
そうしたら、そのあまりに気持ち良さそうな様子に僕までまた眠くなって来て、うとうとと眠りの世界へと引き込まれてしまった。