くるしい…… 苦しい苦しい… 息が詰まる…息が吸えない… 苦しい……くるしい…苦しい…くるしいッ!!!! 助けて…あぁ、誰か。誰かダレカ助けて… お願いだ…意識が…遠退く… 身体が…痙攣している…世界が回る… いやだ…僕は何も悪くない。あれで良かった…手段なんて選んでいられる状況じゃなかったッ! 止めてくれ……助けて…タスケテ……死んで…しま、う…… 「ジョルノッ!!!何してやがる!早くスタンドを解除しろッ!」 「グッ…ぐふ……はぁっはぁっ……!!」 苦しい苦しいと思っていたその元凶は、ジョルノ自らのスタンド、ゴールド・エクスペリエンスであり、 その本体の首を躊躇いもなく身体が宙に浮くほどに絞め上げていたのだった。 ジョルノは執務室で一人、書類に目を通していたが不意に今まで心の隅に押し込めていた不安と恐れが溢れだし 気付かぬ間に自分の首を自らのスタンドで絞め殺そうとしていたのだ。 報告書を持って来たミスタがもう五分も遅ければ、ジョルノは死んでいただろう。 そう考えたミスタは、苦しそうに咳き込むジョルノを介抱しながら背に冷たい汗が流れるのを感じた。 ジョルノを失うかもしれないという恐怖に、ミスタは肝を冷やす。 そしてそこまでジョルノが追い詰められていたことに気付くことが出来ずにいた自分を悔しく思った。 ボスになってから二年が経ったとはいえ、ジョルノはまだ十八だ。 不安になり責任や後悔に圧し潰されそうになってもおかしくはない。 むしろそれが本来であろう。 しかしジョルノは自分の弱みを決して他人に見せようとはしない。 常に自信と威厳に満ち、帝王然として他を圧倒する態度を崩すことは無い。 その様子で部下を従える姿には何も迷いが無いように見える。 だからこそ誰よりも近くに存在するミスタにも彼の苦悩を知ることが出来なかったのである。 ミスタとジョルノは二年前のボス就任後に恋人同士となった。 初めは互いの心の満たされなさを埋めるためだったのかもしれないと今になってミスタは考えていた。 しかし彼らは間違いなく愛し合っており、誰よりも心を許しあえる相手であった。 彼らの仲はすぐに知れ渡った。 古参の幹部には良い顔はされなかったが誰一人として非難する者はいなかった。 実際には出来なかったという方が正しい。 一般人の彼らに前ボスの娘を擁する新しい支配者には対抗する術もなく、 たった数日で世界を変えてしまった恐るべき力の前には平伏すしかなかった。 彼は初めこそ恐れにより命令に従わせていたが、大胆かつ的確な指示と采配で信頼を得ていった。 そして今日では逆らおうと考える者など居ないほどに部下からも慕われていた。 順風満帆に見える彼に、死にたいと無意識のうちに望むような悩みがあるなどと誰が考えるだろうか。 誰もいない。だからこそこのような事態に陥ってしまったのだが… ミスタは己を責めながら、仕えるべき主人であり恋人の、自分よりも一回り細い身体を抱き上げた。 応接用の三人掛けソファへその身体を横たえると、痛々しい痕の付いた首に手を添えた。 ジョルノは涙を溜めた虚ろな目でミスタを見上げていた。 その顔にはいつもの輝くような美しさは見られず、疲れやつれている様子だった。 「なぁジョルノ……俺じゃダメか…?」 ミスタは悲しい笑顔を張り付けてそう聞いた。 「ミス、タ…?」 「俺じゃ支えになってやれてねぇのか…?」 ミスタの瞳から涙が溢れ出た。 それは真上からジョルノの胸元に落とされ、次々に丸い染みを付けた。 ジョルノには見えなかったが、ミスタはその拳を強く握っており、爪で己の掌を傷付けていた。 悔しさと己への怒りで震えてもいた。 その様子を見てジョルノは「悪いことをしてしまったようだ」と少し遠くから思った。 しかし本人にも何故このようなことになってしまったのか分からないのだ。 ブチャラティ達のことは思い出として、代償として思い切ってここまで来たはずだった。 忘れることなどないが、ずっと彼らのことを引きずってなど居られなかった。 今を精一杯生きなくてはならないと、それこそが彼らへの償いだと三人で誓い合ったのだから。 ジョルノは何と言っていいのか分からず、そっとミスタの頬に手を遣った。 視線を絡めていると『愛しい』という想いが溢れだした。 ジョルノは「ありがとう、ミスタ」とかすれた声で囁くと彼の頭を胸に引き寄せて抱き締めた。 迷子になっていた子供が母親に再会したときの様に決して離そうとしないジョルノに、 ミスタは愛しさを感じ、ジョルノに負けぬ想いと強さで彼を掻き抱いた。 暫らくの後、ジョルノはミスタの耳に小さな声で吹き込んだ。 「ねぇ、ミスタ。」 「何だ…?」 それきりジョルノは数分間、何も言葉を発さなかった。 ミスタも彼の言葉を待って抱かれるままその胸に頭を預けていた。 トクトクと聞こえるその音は、ジョルノが生きている証であり、ミスタは酷く安堵した。 その気持ちを知ってか知らずか、ジョルノはただただミスタの髪を撫で梳いていた。 そしてその手を止めると改めてミスタに呼びかけた。 「ねぇ、ミスタ…」 「どうした、ジョルノ。」 「一緒に、死にませんか…?これから二人で。」 「な、に……?」 思わず身体を起こしたミスタに構わず、ジョルノは続けた。 「そうじゃなかったら永久に生きて永久に死のう……僕の能力と矢の力を使えばそれが出来る。 次の人生も絶対に僕らは一緒だ。だからそこでも一緒に生きて、嫌になったらまた死ねば良い。 生きて死んで生きて死んで……来世も来々世もそのまた次も、僕と生きて死んでくれませんか?」 優しく微笑みながら、静かに紡がれるその言葉の内容が、ミスタには一つも理解できなかった。 何を言われているのかは分かるが、頭が理解することを拒絶していた。 愛の言葉を囁くように、愛しい想いを歌にするように語られたジョルノの告白は常識を酷く逸脱していた。 自然の摂理や人間の定めなどというものはそこには存在しなかった。 恐ろしさがミスタを襲い、ジョルノの優しい眼差しから目を反らすことが出来なかった。 「本気…なのか?」 暫し後に恐る恐るそう聞いたミスタの問いに、ジョルノは眩しいまでの笑顔を作って答えた。 「嘘です。すみません、ミスタ。僕としたことが少々弱気になっていたみたいだ…」 ミスタは信じられない思いでジョルノを見た。 一瞬のうちに全てを切り替えてしまったジョルノに驚きを隠せなかった。 ようやく見えた本心の一欠片に手を伸ばしたと思った瞬間、自分から突き放してしまったのだと気付き 悔しさと苛立ちに、ミスタは自分の中の何かが切れる音を聞いた。 ジョルノの肩をつかむとソファに圧し付けるように勢いよく倒して言った。 「良いぜ。殺してやるよ……今からだって構わねぇ。」 「…ぇ…?」 彼の言葉にジョルノは恐ろしさを感じて震えあがった。 人の良さそうな笑顔に似つかわしくないギラリと光る眼でミスタはジョルノを見下ろしていた。 「大丈夫だ。痛みなんて感じる暇はねぇよ。すぐに済む…ピストルズも必要ない。」 「待って…ミスタ…」 「何だ?」 「ま、まだレクイエムを掛けて、ないし……まだ…いい…です」 「そうか…じゃあ、俺のコレ、鎮めてくれるか?」 そう言ってミスタはジョルノの手を取ると昂るものに導いた。 ジョルノは目を丸くした。 今のやり取りの何処にミスタが欲情したのか分からなかったからだ。 「ダメなのかよ。おい、ジョルノ。」 苛立ち気味に聞いてくるミスタに彼は怯えながら、震える指でスラックスをくつろげた。 熱く息衝いているミスタのそれを引きずり出して扱けば、舌舐めずりせんばかりのミスタは一層眼をギラつかせた。 興奮の度合いを上げたミスタはジョルノを床に落として座らせると、無理やりその上品な口に自らをねじ込む。 苦しそうに顔を歪めるジョルノの頭を掴んで腰を動かし、抵抗させる隙さえ与えず身勝手に前後した。 終にはその温かな口の中でミスタは果てた。 むせ込むジョルノを尻目に服装を正したミスタは、何も無かったようにこう言った。 「死にたくなったか?」 ジョルノは目の前が暗くなり意識を飛ばした。 |